EVPとは、社員に提供できる働く価値と、その仕事で期待する役割を整理したものです。採用ブランディングで「自社ならではの魅力が見つからない」と感じたら、キャッチコピーを考える前に、社員が実際に経験している価値を集めてください。この記事では、中小企業がEVPを言語化する手順と、社員への質問例、求人票への落とし込み方を紹介します。
EVPと採用キャッチコピーは、役割が違う
EVPはEmployee Value Propositionの略で、従業員価値提案と訳されます。英国の人事・人材開発の専門団体CIPDは、雇用主として何を大切にし、何を求め、何を提供するかを表すものとして説明しています。参考:CIPD「Employer brand」
一方、採用キャッチコピーは、その価値を短く伝える表現です。「挑戦できる会社」という言葉だけでは、どこまで任されるのか、失敗したときに誰が支えるのかは分かりません。EVPでは、表現の根拠まで整理します。
例えば「顧客の課題発見から改善提案まで担当できる。最初の半年は先輩が案件を一緒に振り返る」という内容なら、仕事の範囲と支援の両方が見えます。これは説明用の仮例です。実際には、自社で確認できた仕事や制度に置き換えます。
採用ブランディング全体の考え方は、中小企業の採用ブランディングの設計図でも紹介しています。ここでは、その土台になる言葉をどう作るかに絞ります。
手順1:一つの職種から、働く価値を集める
初めから全社員に共通する一文を作ろうとすると、「成長」「挑戦」「チームワーク」のような抽象語に寄りやすくなります。まずは、採用を強化したい一つの職種で材料を集めましょう。
確認する相手は、経営者だけに偏らせません。仕事に慣れた社員、入社して日が浅い社員、育成を担う人では、同じ職場の見え方が違います。人数が少ない場合でも、立場の違う声を聞くことに意味があります。
対話の目的は、社員を採点することではなく、会社の説明と実態の差を知ることです。発言を採用広報へ使う場合は、掲載する文脈まで本人に確認します。話したくない内容を無理に引き出す必要はありません。
手順2:「魅力は何ですか」より、経験を聞く
次の質問を、一対一のヒアリングに使ってみてください。すべてに答えてもらうより、一つの具体的な出来事を深く聞く方が材料になります。
入社を決める前、何に期待し、何を不安に感じていましたか。
入社前の説明と、実際に働いて感じた違いは何ですか。
最近、自分の仕事が誰かの役に立ったと感じた場面はありますか。
一人では難しかった仕事を、誰が、どう支えてくれましたか。
自分で決められることと、相談が必要なことは何ですか。
この職場で身についた力を、具体的な仕事で説明すると何ですか。
仕事を続けるうえで、改善してほしいことは何ですか。
新しく入る人に、期待しすぎないでほしいことはありますか。
「先輩が親切です」と返ってきたら、「どんなとき、何をしてくれましたか」と続けます。言葉の上手さではなく、出来事を集めるための質問です。
手順3:事実・意味・条件の三つに分ける
集めた話は、そのまま美談に編集せず、三つに分けて整理します。
事実は、実際に行われている仕事や仕組みです。例えば「週に一度、担当案件を先輩と振り返る時間がある」。頻度や対象が部署によって違うなら、その違いも残します。
意味は、その事実が働く人にもたらす価値です。「判断に迷った理由を言葉にできる」「次の提案を一人で抱え込まずに準備できる」といった形で考えます。
条件は、その価値が成り立つ範囲です。対象の職種、繁忙期の運用、本人に求める準備などを確認します。一人の上司の善意だけに頼っているなら、全社共通の約束として発信する前に運用を整えます。
この整理では、確認できた事実、経営者の理想、今後整えたい制度を混ぜないことが大切です。「今ある魅力」と「これから実現すること」を分ければ、無理に会社を大きく見せずに済みます。
手順4:一枚のEVPシートにまとめる
次の項目を一枚に並べると、採用担当者と現場責任者が同じ情報で話せます。
対象の仕事:どの職種・役割についての約束か。
提供する価値:ここで働くことで得られる経験や環境は何か。
根拠:価値を裏づける仕事、制度、社員の行動は何か。
期待する役割:会社が支援することと、本人に取り組んでほしいことは何か。
現状の課題:まだ十分ではない点と、その改善方針は何か。
確認担当:内容が変わったとき、誰が説明を更新するか。
文章の型は「この仕事では、〇〇に取り組む人に、△△という経験を提供する。そのために□□の支援がある」です。空欄が埋まらなければ、表現を磨くより事実確認へ戻ります。
会社全体の価値観は共有しながら、職種ごとに根拠を変えて構いません。営業と制作で同じ経験を約束する必要はありませんし、一つの部署の働き方を全社員の実態として書くことも避けましょう。
手順5:求人票・採用サイト・面接で確かめる
EVPができたら、まず一つの求人で使います。求人票では担当業務と支援体制へ、採用サイトでは社員の仕事のエピソードへ、面接では入社後の役割説明へ展開します。
現場の面接担当者には、言葉を暗記してもらうより、根拠となる経験を自分の言葉で説明してもらいます。「その約束は、入社した人にも守れますか」と確認できれば、発信と受け入れ体制を一緒に見直せます。
応募者から同じ質問が繰り返される場合は、価値の説明が足りないのか、条件が曖昧なのかを切り分けます。入社後の対話でも、採用時の説明と違った点を聞き、シートを更新してください。
よくある質問
大企業にしかない制度がないと、EVPは作れませんか。
作れます。ただし、待遇の不足をやりがいで埋め合わせる考え方にはしません。仕事内容、学べる相手、相談の仕方、意思決定の範囲など、現実に提供できる価値と労働条件の両方を整理します。
社員の意見が分かれたら、どうすればよいですか。
平均的な言葉へ丸めず、職種や部署、在籍期間による違いを確認します。会社全体に共通する約束と、特定の仕事に限られる価値を分けると、誇張を防ぎやすくなります。
自社らしさは、社員の経験から言葉にする
EVPの出発点は、格好のよい言葉ではなく、社員が実際に経験している仕事です。その経験を掘り下げ、会社が継続して提供できる約束へ整理する。それが、採用ブランディングで伝える価値の土台になります。
次に発信内容を整えるなら、採用サイトに必要なコンテンツの整理方法をご覧ください。言語化からサイトへの展開は、COLORSDRIPのサービスで紹介しています。採用に向けた自社の魅力の整理について相談する。

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