タイトル:「うちには強みなんてない」と言った町工場が、いちばん強い言葉を持っていた話
その社長は、開口一番こう言った。
「正直、うちには強みなんてないんですよ。よその工場と、たいして変わらない」
金属加工をやっている、社員十数人の町工場だった。ホームページを作り直したい、というのが最初の相談だ。古いサイトを見せてもらうと、たしかに十年前のままで、載っているのは設備の一覧と地図くらい。「これじゃ、何が得意な会社かまったく伝わらないですね」と社長も苦笑いしていた。
普通なら、ここで「では、御社の強みを教えてください」と聞く。でも、その質問にちゃんと答えられる中小企業を、僕はほとんど見たことがない。たいてい返ってくるのは「うーん、強みかぁ……」という長い沈黙だ。この社長も、まさにそうだった。
だから僕は、強みを聞くのをやめて、ただ話を聞くことにした。
なぜこの会社を継いだのか。先代はどんな人だったのか。いちばん大変だった時期はいつか。どんな仕事のとき、現場がいちばん燃えるのか。――半日かけて、そんな“強みと関係なさそうな話”ばかりを聞いた。
そうしているうちに、ある言葉が、何度も顔を出していることに気づいた。
「断らない」だ。
「うちは、基本、断らないからさ」
「他がやりたがらない、面倒な小ロットも、まあやるしかないでしょ」
「納期がきついやつも、断ると次がないから、なんとかする」
社長は、これを“強み”だとはまったく思っていなかった。むしろ「だから儲からないんだよね」と、半分グチのように言っていた。引き受けすぎて現場が疲れる、安く叩かれる、その悩みのほうが本人の中では大きかった。
でも、外から聞いている僕には、まったく違って聞こえた。
「他がやりたがらない仕事を、断らずに引き受け続けてきた会社」。それは、十数年かけて積み上げた、立派な哲学だ。面倒な小ロット、短納期、無理めな相談――そういう“他が逃げる仕事”が集まってくるということは、この工場が、地域の製造業にとって最後の駆け込み寺になっているということでもある。げんに、付き合いの長い取引先ほど「困ったときはあそこ」と言って戻ってくる、という話も出てきた。
強みは、なかったんじゃない。
当たり前すぎて、本人が価値だと気づいていなかっただけだ。
毎日やっていることほど、人は「すごいこと」だと思えない。社長にとって「断らない」は、誇るべき強みではなく、ただの日常で、むしろ苦労の種ですらあった。だから「強みは何ですか」と正面から聞いても、絶対に出てこなかった。価値は、本人のいちばん近くにあると、いちばん見えなくなる。
僕は、この「断らない」を、会社の真ん中に置くことにした。
ホームページのいちばん上に、こう掲げた。
――「“できない”を、言わない工場。」
設備の一覧でも、技術の専門用語でもない。この会社が十数年やってきたことを、そのまま一行にした言葉だ。社長に見せたとき、しばらく黙ってから、「……これ、うちのことだ」と言った。あの瞬間の顔を、僕はよく覚えている。自分でも気づいていなかった自社の芯を、外から手渡された顔だった。
面白いのは、その後だ。
この一行を表紙に据えてから、変わったのはサイトのアクセス数だけじゃなかった。いちばん変わったのは、社内の空気だった。
社長が、朝礼でこの言葉を使うようになった。「うちは“できないを言わない工場”だから」と。すると現場の職人たちが、面倒な仕事を引き受けたときに、前より少しだけ誇らしげになった。今まで「なんでこんな面倒な仕事ばっかり」と思っていた作業が、「これがうちの売りなんだ」という意味を持ち始めたからだ。採用の問い合わせでも、「あの一行に惹かれて」と言う応募者が出てきた。
つまり、僕がやったのは、新しい強みを“作った”ことじゃない。もともとあった強みを“見つけて、言葉にした”だけだ。デザインの本当の仕事は、たぶんここにある。ゼロから価値をでっち上げることじゃなく、すでにその会社が積み上げてきたものを、外から見つけ出して、誰にでも伝わる形に翻訳すること。
中小企業のほとんどには、こういう“まだ言葉になっていない強み”が眠っている。本人にとっては当たり前すぎて、価値だと気づいていない哲学が、必ずどこかにある。それを掘り当てて、未来まで効く資産に変える。それが、僕がデザインという仕事でやりたいことだ。
もしあなたも、「うちには強みなんてない」と感じているなら。
たぶん、それは「ない」んじゃない。近すぎて、見えていないだけだ。
COLORSDRIPでは、中小企業の思想・価値・目指す姿を言語化し、デザインによって“未来の経営資産”に変えるお手伝いをしています。「うちの強みって、何だろう?」と一度でも思ったことがある方は、まず気軽に話を聞かせてください。→[HP相談フォーム / LINE]

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