「高い」と言われる会社ほど、"高い理由"を語っていない。― 値下げの前に、やることがある
「うちの商品、高いってよく言われるんです」
相談に来た社長から、この一言が出ることは本当に多い。そして、たいていその次に続くのは「だから、少し値下げを考えていて」という話だ。
でも僕は、値下げの相談には、すぐには乗らない。
まず聞くのは「その"高い"は、本当に値段の問題ですか?」ということだ。
「高い」の正体は、たいてい値段じゃない
長く中小企業の現場を回ってきて、思うことがある。
「高いと言われる」と悩む会社の多くは、価格そのものが高いわけじゃない。「なぜこの値段なのか」が、ひとことも語られていないだけだ。
人は、理由のわからない金額を「高い」と感じる。逆に、納得できる理由がそろっていれば、同じ金額でも「それなら妥当だ」と受け取る。つまり「高い」は値段への評価のようでいて、その実、"説明の不足"への反応であることが、すごく多い。
ここを取り違えると、打ち手を間違える。「高いと言われた→じゃあ下げよう」と反射的に値下げすると、利益を削りながら、肝心の「価値が伝わっていない」という本当の問題は、手つかずのまま残る。下げても、また「高い」と言われる。出口のない値引き競争の入り口は、たいていここにある。
ある工務店の、見積書の一行
以前、ある工務店の社長と、一枚の見積書を一行ずつ眺めていたことがある。「お客さんに高いと言われる」と悩んでいた会社だ。
途中、僕はある一行で手を止めて聞いた。
「ここ、なんでこの手間までかけるんですか?」
社長は、きょとんとした顔でこう答えた。
「いや、当たり前でしょ。ここをちゃんとやっとかないと、10年後にお客さんが困るんだから」
僕は、それだ、と思った。
その"当たり前"こそが、高い理由だったからだ。目先の仕上がりには見えないけれど、10年先の安心まで含めて値段になっている。本人にとっては息をするように当たり前すぎて、わざわざ言葉にする発想すらなかった。だから見積書には金額しか並ばず、お客さんには「なぜか高い会社」としか映っていなかった。
価値は、ちゃんと値段の中に入っていた。
ただ、誰にも翻訳されていなかっただけだ。
渡すべきは、価格表じゃなく"価値の翻訳"
この社長とやったのは、値下げじゃない。
見積書の一行ずつに埋まっている"当たり前"を、ひとつずつ言葉にして、表に引っぱり出す作業だ。
「なぜこの手間をかけるのか」「やらないと、何年後に、誰が、どう困るのか」「他がやらないここを、なぜうちはやるのか」。一行ずつ問いを当てていくと、社長の口から、これまで一度も商談で語られなかった理由が、いくつも出てきた。それを、お客さんに渡す説明に編み直していった。
金額は、一円も変えていない。
変えたのは、「何にお金を払ってもらっているのか」を、伝わる言葉にしたことだけだ。
しばらくして社長から、「最近、高いと言われる回数が減った」と連絡があった。値段は同じなのに、だ。お客さんが見ているものが、"金額"から"理由"に変わったからだと思う。
値下げの前に、やること
だから、もし今あなたが「高いと言われる」と悩んでいるなら、値下げの相談をする前に、一回だけ立ち止まってほしい。
自社の見積書、あるいは商品やサービスの値段。その金額の"理由"を、お客さんに伝わる言葉で、ちゃんと語れているだろうか。
たぶん、語るべき理由は、もうあなたの会社の中にある。創業から積み上げた手間、譲らずに守ってきた一線、「ここだけは」というこだわり。それは、何年もかけて貯めてきた、れっきとした資産だ。ただ、当たり前になりすぎて、言葉になっていないだけ。
その"まだ言葉になっていない高い理由"を掘り当てて、伝わるかたちに翻訳する。僕がやっている仕事は、煎じ詰めればこれだと思っている。値段を下げる相談じゃなく、価値を翻訳する相談に来てくれた会社は、たいてい、値下げをせずに前へ進んでいける。
きれいな値札の付け替えじゃなく、あなたの会社にしか言えない"高い理由"を、未来まで効く言葉に変えること。それが、僕の考えるデザインの仕事だ。
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