「“守る”と“凍結”は違う ― 二代目が先代から本当に引き継ぐもの」

「“守る”と“凍結”は違う ― 二代目が先代から本当に引き継ぐもの」

Kenta Torii

Knowledge

「先代のやり方は、できるだけ守りたいんです」

事業承継のブランディングの相談で、二代目からいちばんよく聞く言葉だ。

僕はこの言葉を聞くたびに、立派だなと思う。先代への敬意があって、会社の歴史を軽く見ていない。全部ひっくり返して自分色に塗り替えたがる承継より、ずっと信頼できる。

でも同時に、少しだけ心配になる。

その「守る」が、“凍結”になっていないか。

■ 守ると凍結は、似ているようで正反対

凍結とは、形をそのまま残すこと。先代が作ったロゴ、先代が書いた看板、先代が決めた社訓、先代のやり方の手順。それらに一切手を付けず、金庫にしまうように保存する。

一見、誠実に見える。でも会社は生きものだ。お客さんも、市場も、働く人も変わっていく。形を凍結したまま時間が経つと、その形は少しずつ現実とズレていく。そしてある日、「うちの看板、正直古く見えるよな」と誰もが思っているのに、誰も言い出せない会社になる。

先代を大事に思うほど、凍結は進む。手を付けることが、否定に感じられるからだ。

じゃあ「守る」とは何か。

僕は、形の奥にある“意味”を生かし続けることだと思っている。形は意味を運ぶための器で、器は時代に合わせて変えていい。むしろ、意味を生かし続けるためには、器のほうを変え続けなければいけない場面のほうが多い。

何十年、何百年と続く老舗を思い浮かべてほしい。長く続いている会社ほど、実は商品も売り方も店構えも、変え続けている。変わらないのは「何のためにやっているか」だけだ。伝統とは凍結の結果ではなく、意味を守るために形を変え続けてきた結果なんだと思う。

■ 看板を変えたら、先代がいちばん喜んだ話

製造業の二代目と仕事をしたときのことだ。

ヒアリングを重ねても、どこか歯切れが悪い。何度目かの打ち合わせで、ようやく本音が出た。

「先代の手書き文字の看板、実は…変えたいんです。でも、あれだけは触っちゃいけない気がして」

先代が自ら筆で書いた看板は、創業以来ずっと会社の顔だった。社員も取引先も、あの文字でこの会社を覚えている。変えたら先代の何かを消してしまう気がする、と二代目は言った。

僕がやったのは、デザインの提案じゃない。先代に会いに行って、聞いた。「なぜ、看板を手書きにしたんですか」

先代は笑ってこう答えた。

「職人が主役の会社だと示したかったんだよ。それに当時は、手で書くしかなかっただけ」

この一言で、仕分けの線が引けた。守るべきは“筆跡”ではなく、“職人が主役”という意味のほうだった。筆跡は、その意味を当時の手段で表した器にすぎなかった。

新しい看板は、現役の職人たちの仕事風景が主役になるデザインに変えた。先代の筆跡は、社史をまとめた冊子の表紙に大切に移した。

出来上がりを見て、いちばん喜んだのは先代だった。「俺が言いたかったのは、こういうことだ」と。

二代目が守ろうとしていた“形”を先代自身は少しも惜しまなかった、という事実が、二代目の肩の荷を下ろした。あの瞬間から、この会社の承継は前に進み始めたと思う。

■ 「変えないものリスト」を先に作る

この経験から、僕は承継案件の進め方を一つ決めている。

「変えるものリスト」より先に、「変えないものリスト」を作ること。

手順は3つ。

1つ目。先代と二代目それぞれに、「これを失ったら、うちがうちじゃなくなるもの」を挙げてもらう。ロゴ、社名、色、先代の口癖、朝礼のやり方、値決めの考え方。大小問わず、全部出す。

2つ目。出てきたものを一つずつ、「それは形ですか、意味ですか」と問い直す。看板は形。「職人が主役」は意味。手書きの見積書は形。「顔の見える商売」は意味。この問いを通すと、残すべきだと思っていたものの大半が“形”で、本当に失ってはいけないものは、その奥にある数個の“意味”だと分かってくる。

3つ目。絞り込んだ数個の意味を、今の言葉で書き直す。先代の時代の言い回しのままではなく、二代目とその社員たちが自分の言葉として使える表現にする。ここまでやって、はじめて「引き継いだ」と言える。

このリストができると、二代目の顔つきが変わる。変えてはいけないものが数個に絞れた瞬間、それ以外の全部が「変えていい余白」になるからだ。「変えたら先代に悪い」という漠然とした重さが、「ここさえ守れば、あとは自由にやれる」という軸に変わる。

変える勇気は、性格や度胸の問題じゃない。変えないものが決まった人にしか、持てないものだと思う。

■ 承継の主役は、ロゴでも看板でもない

事業承継のブランディングというと、社名変更やロゴ刷新の話だと思われがちだ。でも僕の実感では、形をどうするかは最後の2割で、残りの8割は「何を残し、何を手放すか」の言語化に費やされる。

そしてこの仕分けは、二代目ひとりで抱えるには重すぎる。先代に直接聞きづらいことも多いし、社内には利害もある。だからこそ、外の人間が間に立って、先代と二代目の言葉を丁寧に聞き比べる意味がある。

先代が築いたものを凍結して背負うのではなく、意味だけを受け取って、自分の時代の形に訳し直す。それができた二代目は、承継を「重荷」ではなく「元手」として語り始める。その姿を見るのが、僕はこの仕事でいちばん好きだ。

COLORSDRIPでは、中小企業の思想・価値・目指す姿を言語化し、デザインによって“未来の経営資産”に変えるお手伝いをしています。「うちは何を残して、何を変えるべきか」――その仕分けから一緒に始めたい方は、まず気軽に話を聞かせてください。→ HPの相談フォームからどうぞ。

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デジタル領域が得意なデザイナー。日頃から海外のトレンド情報や最新技術をインプットし、お客さまに価値を届けます。

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