「ホームページを新しくしたいんです」
僕のところに来る相談で、いちばん多い入り口がこれだ。そして経験上、この相談の8割は、ホームページの問題じゃない。
誤解しないでほしいのだけど、「サイトを作り直す必要がない」と言いたいわけじゃない。作り直した方がいいケースは多い。ただ、「サイトが古いこと」が本当の原因であることが、驚くほど少ないのだ。
■ 症状と原因を分ける
「サイトを新しくしたい」と言う社長に、僕は必ずこう聞く。
「新しくなったら、何が起きてほしいですか?」
返ってくる答えは、だいたい3つに分かれる。「いい人材から応募がきてほしい」「価格じゃない問い合わせがほしい」「取引先や銀行に見られたとき、恥ずかしくない状態にしたい」。
よく見てほしい。どれも、サイトのデザインの話をしていない。「誰に、どう思われたいか」の話をしている。
つまり社長が本当に困っているのは、サイトが古いことじゃなくて、「自社の価値が、届いてほしい相手に届いていないこと」だ。サイトの古さは症状で、原因は別のところにある。ここを分けずにリニューアルすると、きれいになった器に、伝わらない中身をそのまま流し込むことになる。
■ 器を新しくしたのに、悪化した話
以前、ある製造業の社長から「サイトが古いから問い合わせが減った」と相談を受けたことがある。
数字を見せてもらうと、意外なことが分かった。問い合わせの件数は、ほとんど減っていない。減っていたのは件数じゃなく、質だった。「この加工、いくらでできる?」という価格だけの問い合わせは来る。でも「おたくの技術でこういうことはできないか」という、社長が本当に欲しい相談が来ない。
原因はすぐに見つかった。サイトには設備一覧と対応可能な加工の表が載っている。でも「この会社は何が得意で、どんな相手の、どんな困りごとの役に立ちたいのか」が、どこにも書かれていなかったのだ。
これで器だけ新しくしたら、どうなるか。きれいで安心感のあるサイトから、同じ中身が発信される。むしろ「ちゃんとしてそうな会社=相見積もりの候補に入れやすい会社」に見えて、価格の問い合わせが増える可能性すらある。
だからこの会社では、デザインの前に、社長と一緒に「来てほしい相談」を先に言葉にした。過去の仕事から「うちが一番力を発揮した案件」を3つ選んでもらい、その共通点を掘って、「うちはこういう困りごとに強い」と言い切れる一文を作った。サイトの構成は、その一文が最初に目に入るように組み直した。
リニューアル後、問い合わせの件数は劇的には増えていない。でも「こういうことはできないか」という相談の割合が、目に見えて変わった。社長が言った「問い合わせ対応が、前より楽しくなった」という一言が、僕はいちばん嬉しかった。
■ リニューアルの前に確認してほしい、3つの質問
もし今、サイトを作り直そうとしているなら、制作会社に見積もりを取る前に、この3つだけ確認してみてほしい。
ひとつ。「新しくなったら何が起きてほしいか」を、一文で言えるか。「今どきのデザインにしたい」は答えにならない。誰からの、どんな行動が増えてほしいのか。
ふたつ。今のサイトに書いてある言葉を、社長自身が「うちらしい」と思えるか。デザインが古くても、言葉が生きているサイトはある。逆に、どれだけきれいでも、借り物の言葉でできたサイトは働かない。
みっつ。今きている問い合わせは、「来てほしい相談」か。もしズレているなら、それはデザインではなく、発信している中身のズレだ。
3つとも即答できるなら、あとは器の問題だから、安心してリニューアルすればいい。ひとつでも詰まるなら、先にやるべきは言葉の方だ。
■ 順番が、資産かどうかを分ける
僕が「デザインは未来の経営資産になる」と言い続けているのは、こういう順番で作ったものは、古びないからだ。
「どう思われたいか」から作ったサイトは、数年後にデザインの流行が変わっても、載っている言葉が会社の芯とつながっているから、部分的な改修で済む。逆に、見た目から作ったサイトは、流行が変わるたびに全とっかえになる。同じ「リニューアル費用」でも、経費になるか資産になるかは、作る順番で決まる。
サイトを新しくしたい、という気持ちの奥には、たいてい「うちの本当の価値を、ちゃんと届けたい」という願いがある。だったら先に手をつけるべきは、器じゃなくて、その価値を言葉にすることだ。
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