「全部伝えたい」が、いちばん伝わらない ― 僕が“盛りすぎた提案”で学んだこと

「全部伝えたい」が、いちばん伝わらない ― 僕が“盛りすぎた提案”で学んだこと

Kenta Torii

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「全部伝えたい」が、いちばん伝わらない ― 僕が“盛りすぎた提案”で学んだこと

今日は、僕の失敗の話をしようと思う。

数年前、ある製造業の会社から、ホームページのリニューアルを頼まれた。社員30人ほどの、堅実ないい会社だった。社長へのヒアリングにはたっぷり時間をかけた。創業からの歩み、譲らない品質基準、若手が育っている現場、地域との付き合い、急な依頼にも応える柔軟さ。聞けば聞くほど、魅力が出てくる。

僕はそれを、全部載せた。

トップページには技術力と品質。会社案内には50年の社歴と地域貢献。採用ページには社員の人柄。強みの一覧には、柔軟な対応力とスピード。ヒアリングで掘り当てた宝物を、一つも取りこぼさないように、丁寧に、全部。

社長は完成したサイトを見て「うちの良さが全部入ってる」と喜んでくれた。僕も、いい仕事をしたと思っていた。

半年後、問い合わせは、ほとんど増えていなかった。

正直、最初は理由が分からなかった。載っている情報は全部本当のことだし、デザインも読みやすく整えたつもりだった。嘘も誇張もない。なのに、なぜ反応がないのか。

答えに気づいたのは、自分が発注側に回ったときだった。ある設備を探して、同業数社のサイトを見比べていて、愕然とした。どの会社も「高品質」「豊富な実績」「柔軟な対応」「充実のサポート」と書いてある。全部読み終えたあと、僕の頭には、どの会社の顔も残っていなかった。

──あのサイトを見た人も、同じだったのだ。

10個の魅力を並べると、10個が薄まって届く。人は一度に一つのことしか受け取れないから、全部言うことは、何も言わないことと同じになる。「なんとなくいい会社そう」という印象は残るかもしれない。でも「なんとなくいい会社」を、人はわざわざ選ばない。選ぶ理由が、一つも立っていないからだ。

僕の失敗は、デザインの失敗じゃなかった。「選ぶ」という、いちばん大事な仕事から逃げた失敗だった。

ヒアリングで魅力を掘り当てるのは、実は仕事の前半にすぎない。後半にあるのは、掘り当てた宝物の大半を「言わない」と決める工程だ。そしてこの後半のほうが、はるかに難しい。

なぜなら、社長にとって自社の魅力は、全部わが子みたいなものだからだ。「技術力は載せなくていいです」なんて提案は、そのまま出せば角が立つ。実際、僕が「削りましょう」と切り出すと、ほとんどの社長が一瞬、寂しそうな顔をする。その気持ちは痛いほど分かる。どれも、何十年かけて積み上げてきた本物なのだ。

でも、だからこそ僕は、あの失敗以来、削る提案から逃げないと決めている。全部載せる優しさは、結局、誰にも届かないという残酷さに変わる。それを僕は身をもって知ってしまった。

削るとき、僕は社長と一緒に3つの問いを通す。

一つ目。「それは、お客さんがあなたの会社を選ぶ理由になっているか」。社内で誇りに思っていることと、お客さんが選ぶ理由は、ずれていることが多い。過去の受注を振り返って「なぜうちに頼んだんですか」を思い出してもらうと、案外一つの理由に集約されていく。

二つ目。「それは、競合も同じことを言えないか」。「高品質」「柔軟な対応」は、たいてい隣の会社も言える。言えてしまう言葉は、看板にならない。その会社にしか言えない言い方が見つかるまで、言葉を彫り続ける。

三つ目。「それは、10年後も言い続けられるか」。流行りの設備や一時的な体制は、いずれ看板から降ろすことになる。長く効かせたいなら、時間が経っても変わらない部分に賭けたほうがいい。

あの製造業の会社とは、その後、絞り直しの改修をやらせてもらった。3つの問いを通して残ったのは、「試作段階から相談できる技術屋」という一点だった。技術力も社歴も人柄も、嘘じゃない。でも選ばれる理由はそこじゃなかった。図面が固まる前の、まだ曖昧な段階から付き合ってくれること。それがこの会社が選ばれてきた、本当の理由だった。

トップページからは、たくさんの魅力を引っ込めた。代わりに「試作から、一緒に悩みます」という一行を置いた。

問い合わせの数は、劇的には変わっていない。でも中身が変わった。「まだ図面もないんですが、相談できますか」という連絡が来るようになった。まさに、この会社がいちばん力を発揮できる相手だ。商談の成約率が上がり、社長は「営業がラクになった」と笑っていた。

絞った一つの言葉は、こうして何年も効き続ける資産になる。逆に、全部盛りの言葉は、作った瞬間から誰の記憶にも残らない経費になる。同じ制作費でも、分かれ道はここにある。

「全部伝えたい」という気持ちは、間違いじゃない。それだけ会社に本物の魅力があるということだから。でも、伝えることと、届くことは違う。届けたいなら、選ばなきゃいけない。そして選ぶ痛みを、経営者一人に背負わせないために、僕みたいな外部の参謀がいるのだと思っている。

あなたの会社の魅力を、もし一つしか言えないとしたら、何を残すか。

その問いに向き合った分だけ、言葉は資産になる。

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デジタル領域が得意なデザイナー。日頃から海外のトレンド情報や最新技術をインプットし、お客さまに価値を届けます。

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