「うちは普通の会社ですから」― その“当たり前”に、資産が眠っている
ヒアリングの席で、いちばんよく聞く言葉がある。
「うちは普通の会社ですから、書くようなことは何もないですよ」
謙遜でも卑下でもなく、社長は本気でそう思っている。そして僕の経験では、この言葉が出てきた会社ほど、掘ると出てくる。強みがない会社に、僕はまだ出会ったことがない。あるのは、強みが“当たり前”になりすぎて、社内の誰も言葉にしていない会社だけだ。
◇
ある金属加工の会社で、こんなことがあった。
社員20人ほど、創業40年。社長へのヒアリングで「御社が選ばれている理由は何だと思いますか」と聞くと、返ってきたのは「うーん、近いからじゃないですか」だった。技術の話を振っても「うちレベルの設備なら、どこにでもありますよ」。半ば本気で「書くことがなくて申し訳ない」という顔をしている。
なので、質問を変えた。「最近、お客さんに言われて印象に残っている言葉はありますか」。社長は少し考えて、こう言った。
「そういえばこの前、『おたくは電話したら必ずその日のうちに答えをくれるから助かる』って言われましたね。まあ、当たり前のことなんですけど」
僕はそこでペンを走らせた。「当たり前のことなんですけど」――この一言が出たときが、掘るべき場所の合図だ。
詳しく聞くと、この会社では「問い合わせにはその日のうちに、できる・できない・いつまでに分かる、のどれかを必ず返す」ことが40年続いていた。難しい相談で即答できないときも、「三日ください」とその日に返す。社長いわく「先代がうるさかったから、体に染みついてるだけ」。社内では誰も、これを強みだと思っていなかった。
ところが、お客さんの側から見ると景色がまるで違う。発注担当者は、返事が来ない加工屋に何日も待たされる経験を、嫌というほどしている。「即答はしないが、必ずその日に何か返ってくる会社」は、発注する側にとって、段取りが読める貴重な相手だった。近いから選ばれていたのではない。読めるから選ばれていた。
この一点を「その日のうちに、必ず返事をする加工屋」という言葉にして、サイトと会社案内の看板に据えた。営業の場で社長が自社を説明する言葉も変わった。後日、社長がぽつりと言った。「40年やってきたことに、初めて名前がついた気がします」
◇
この仕事を通じて確信していることがある。本当にすごいことほど、続けているうちに空気になる、ということだ。
毎朝の検品も、職人同士の声かけも、クレーム対応の速さも、始めた頃は意識的な努力だったはずだ。でも10年続けば習慣になり、20年続けば日常になる。日常になったものを、人はわざわざ言葉にしない。だから会社案内にも採用ページにも載らず、外の世界には一切伝わらない。「いい会社なのに、よさが伝わらない」の正体は、たいていこれだ。
では、空気になった強みをどう掘り当てるか。僕が現場で使っている問いを、三つ紹介したい。
一つ目。「社外の人に驚かれたことは何ですか」。社内の普通と社外の普通のズレを探す問いだ。社長本人が思い出せなければ、社員さんやお客さんに聞くのが早い。「え、それ全部手作業でやってるんですか」と外の人が驚いた場所には、ほぼ間違いなく何かが埋まっている。
二つ目。「もし明日からそれをやめたら、誰が困りますか」。当たり前になっている習慣の価値は、失ったときに初めて見える。その日返事をやめたら、あの発注担当者が困る。朝の検品をやめたら、あの取引先の品質保証が崩れる。困る人の顔が具体的に浮かぶ習慣は、単なる社風ではなく、選ばれている理由だ。
三つ目。「それは、いつから続いていますか」。年数は、それ自体が証拠になる。「丁寧な対応を心がけています」は誰でも言えるが、「その日のうちに返す、を40年」は、その会社にしか言えない。続いた年数が長いほど、言葉にしたときの重みが変わる。
◇
注意してほしいのは、これは「どんな会社にも強みがあるから大丈夫」という気休めの話ではない、ということだ。掘り当てた“当たり前”は、言葉にして、看板に据えて、初めて資産になる。頭の中や社風のままでは、社長の代で消える。実際、先の会社の「その日返事」も、言語化する前は先代の口うるささという属人的な記憶でしかなかった。言葉になった瞬間から、それは新入社員に教えられるものになり、営業が語れるものになり、サイトが24時間伝え続けるものになった。
「うちは普通の会社ですから」と、もしあなたも言ったことがあるなら。その“普通”を、一度疑ってみてほしい。40年続いた普通は、もう普通ではない。それは、まだ名前のついていない資産だ。
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