「うちの商品、高いって言われるんですよ」
この相談を、僕は本当によく受ける。業種はバラバラだ。製造業、工務店、食品、士業。でも悩みの形はほとんど同じで、「品質には自信がある。でも見積もりを出すと、高いと言われて他社に流れる」。
そして、次に出てくる言葉もだいたい同じだ。
「やっぱり、値下げするしかないですかね」
僕の答えは決まっている。値下げの前に、やることがあります、だ。
■「高い」は拒絶ではなく、質問である
まず前提を疑いたい。「高い」と言われたとき、僕らはそれを「断り文句」として受け取ってしまう。でも僕は、あれは質問だと思っている。
「この値段を払う理由を、教えてください」
そう聞かれているのだ。お客さんは、安いものだけを買うわけじゃない。僕らだって、少し高くても信頼できる病院を選ぶし、多少値が張っても壊れない道具を買う。払う理由に納得できれば、人は高いほうを選ぶ。
つまり「高い」と言われ続ける状態は、価格の問題である前に、払う理由が伝わっていないという伝達の問題であることが多い。
■ ある製造業の話
以前、部品加工の会社から相談を受けた。他社より2割ほど高く、相見積もりで負け続けているという。
社長へのヒアリングで、僕はいつもどおり質問を重ねた。なぜその価格なのか。何にコストがかかっているのか。
出てくる、出てくる。検品は機械任せにせず、人の目で二重に確認している。だから不良品の流出が業界平均より一桁少ない。急な仕様変更にも職人が対応できるよう、多能工を育てるのに何年もかけている。納期を落としたことは、20年間で一度もない。
じゃあ、それをお客さんに伝えていますか?と聞くと、社長はこう言った。
「いや、そんなの当たり前のことなので。言うほどのことでもない」
これだ。僕が中小企業の現場で何度も出会う、いちばんもったいない瞬間。作り手にとっての「当たり前」は、買い手にとっては「知らされていない価値」だ。そして知らされていない価値は、存在しないのと同じ扱いを受ける。
買う側から見える情報が値札しかなければ、比較は値札だけで行われる。2割高い理由が見えなければ、ただの「2割高い会社」になる。当然、負ける。
■ 翻訳という工程
この会社とやったことは、シンプルに言えば翻訳だ。
社長の頭の中にある「当たり前」を全部書き出し、その中から「お客さんの損得に直結するもの」を選び、お客さんの言葉に置き換える。
「人の目で二重検品」は、そのままでは伝わらない。買い手にとっての意味に訳すと、「御社のラインを、不良品で止めません」になる。「納期20年無遅刻」は、「御社の生産計画を、うちが狂わせることはありません」になる。
これを会社案内と見積書に添える一枚の資料にまとめた。見積もりの数字の隣に、「この価格に含まれているもの」が言葉として並ぶようにした。
結果、相見積もりの勝率は目に見えて変わった。それ以上に社長が驚いていたのは、値切られる回数そのものが減ったことだ。「高い理由が先に伝わっていると、価格交渉が起きにくいんですね」と。
そう。価格交渉は、価値が見えないときに起きる。見えるものが値段しかないから、値段を叩くしかないのだ。
■ 値下げは、いちばん高くつく
逆に、翻訳をせずに値下げで応じるとどうなるか。
値下げした瞬間は、たしかに受注できる。でもそれは「価値を説明する」という仕事を放棄した分の翻訳料を、自分の利益から支払っているのと同じだ。しかも一度下げた価格は、次からの基準になる。「この会社は言えば下がる」という学習だけが、お客さんの側に資産として積み上がっていく。
値下げは、未来の自分に請求書を回す対応だと僕は思っている。
■ まず、これだけやってみてほしい
もし今、「高いと言われる」に悩んでいるなら、値下げを考える前に、一つだけ試してほしい。
自社の値段の理由を、紙に書き出してみることだ。何に手間をかけているか。何を絶対にやらないか。同業が省いている工程で、自社が省いていないものは何か。
書き出したら、その一つひとつに「で、それはお客さんにとって何がうれしいのか?」と質問してみる。この質問に答えたものが、あなたの会社の“高い理由”であり、まだ翻訳されていない資産だ。
それは値札と違って、真似されにくい。何年もかけて積み上げてきた仕事の流儀そのものだからだ。言葉にして、見えるかたちにした瞬間から、それは値段を守る盾として、この先ずっと効き続ける。
高いんじゃない。高い理由が、まだ伝わっていないだけ。──そういう会社を、僕はたくさん見てきた。
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