多数決で選ばれたロゴは、なぜ誰にも愛されなかったのか ― 僕が“社内投票”を提案して学んだこと
白状すると、これは僕自身の失敗の話だ。
独立して間もない頃、ある会社のロゴを作った。従業員20人ほどの、堅実なものづくりの会社。ヒアリングを重ねて、僕は3つの案を仕上げた。A案は創業の哲学を強く出した、少し尖った案。B案は業界の王道を踏まえた端正な案。C案はその中間の、バランスのいい案。
問題は、決め方だった。
社長は迷っていた。「うーん、俺はAが好きなんだけどな。でも独りよがりかもしれない」。その迷いを見て、僕は言ってしまった。「せっかくですから、社員のみなさんにアンケートを取ってみますか」。
我ながら、いい提案をしたつもりだった。全員で決めれば、全員のロゴになる。納得感も出るし、社長の独断と言われることもない。民主的で、誰も傷つかない決め方に思えた。
結果は、C案。中間のバランス案が、過半数を取った。
A案に入れた人はA案の尖りを愛し、B案に入れた人はB案の端正さを推していた。でも集計してみると、勝ったのは「どちらでもない案」だった。誰の1位でもないけれど、誰の最下位でもない案。全員がそこそこ許せる案が、いちばん強い。多数決とは、そういう構造をしている。
納品して、半年ほど経った頃。別件で訪ねたその会社で、社長がぽつりと言った。
「誰も、このロゴの話をしないんだよね」
胸に刺さった。嫌われてはいない。ただ、誰も語らない。名刺にもトラックにも印刷されているのに、「うちのロゴはこういう意味なんです」と誰も口にしない。社長自身も、だ。A案を選んでいたら語られていたはずの創業の哲学は、投票箱の中に置き去りにされていた。
デザインは、選ばれた瞬間からが本番だ。語られて、使われて、初めて資産になる。誰にも語られないロゴは、きれいに刷られた“飾り”のまま終わる。僕はあの提案で、その会社の語るべき物語を、平均点と引き換えに手放させてしまった。
なぜ多数決はダメだったのか。あとから考えて、理由は3つあると思っている。
1つ目。多数決は「好き嫌い」を集計する仕組みであって、「正しいかどうか」を判定する仕組みではないこと。デザインの正しさは、見る人の好みでは決まらない。「誰に、何を伝え、どう思われたい会社なのか」との一致度で決まる。ところが投票用紙には、その基準がどこにも書かれていない。書かれていなければ、人は自分の好みで選ぶ。当たり前のことだった。
2つ目。尖った案は、構造的に負けること。強い案は、強く好かれると同時に、強く引っかかる。引っかかりは減点になり、減点の少ない無難な案が浮上する。つまり多数決は「いちばん伝わる案」ではなく「いちばん角の取れた案」を選ぶ装置になる。会社の個性を形にするための工程が、個性を削る工程に変わってしまう。
3つ目。これがいちばん痛かったのだけれど、多数決は「決めた人」を消してしまうこと。全員で決めたものは、誰のものでもない。社長がA案を選んでいたら、社長は事あるごとにロゴの意味を語っただろう。自分で決めたものは、自分の言葉で語れるからだ。C案を語る言葉は、誰も持っていなかった。
じゃあ、どう決めればよかったのか。
今の僕は、案を見せる前に「判断基準」を先に作るようにしている。①誰に届けたいか ②何を伝えたいか ③どう思われたいか。この3行を社長と言葉にして、紙にして、会議の机の真ん中に置く。案の説明も「A案はこの基準の③をこう満たしています」という形でやる。好みの感想が出たら、いったん基準に翻訳し直す。
そして最後に決めるのは、多数決ではなく経営者だ。ただし「好きだから」ではなく、「基準に照らしてこれだ」と言えるかたちで。この決め方なら、社員の意見を聞くことにも意味が出る。感想を集めるのは、票を数えるためではなく、基準の穴を見つけるためだから。
あの失敗から、僕はデザインの仕事の定義が少し変わった。デザイナーの仕事は、いい案を出すことだけじゃない。いい決め方を設計することまで含めて、デザインなのだと思う。どんなにいい案も、決め方を間違えれば飾りになる。決め方が良ければ、選ばれた案は決めた人の言葉で語られ、何年も効く資産になっていく。
もしあなたの会社が、いまデザインを「みんなの好き嫌い」で決めそうになっているなら、投票の前に3行だけ書いてみてほしい。誰に届けたいか。何を伝えたいか。どう思われたいか。──それを書く作業が、実はもう、ブランドづくりの入り口になっている。
COLORSDRIPでは、中小企業の思想・価値・目指す姿を言語化し、デザインによって“未来の経営資産”に変えるお手伝いをしています。「うちの場合はどうだろう?」と思った方は、まず気軽に話を聞かせてください。→ [HP相談フォーム / LINE]

ダウンロード
今すぐPDFでダウンロードできます。
お問い合わせ
私たちが経営者の方々と同じ目線で、共に発掘します。
