「いい人が、採れないんです」
中小企業の社長と話していて、この一言を聞かない月はない。求人媒体にお金をかけ、給料を相場より少し上げ、写真もプロに撮り直した。それでも、応募は来るけれど「ちょっと違う」人ばかり。面接まで進んでも、お互いどこかピンと来ないまま終わる。
先週も、ある社長から同じ相談を受けた。媒体を3つ使い、待遇も改善済み。やれることはやった、という顔をしていた。
でも僕は、その日、求人票を一度も直さなかった。
「いい人が採れない」の正体は、たいてい求人票の中にはないからだ。
■ 条件で集めると、条件で去る人が集まる
まず押さえておきたいことがある。会社が「条件」で人を集めようとすると、集まってくるのは「条件で会社を選ぶ人」だということ。
給料が高いから入った人は、もっと高い給料を見つけたら、そこを理由に辞めていく。休みが多いから入った人は、もっと休める会社に移っていく。これは、その人が悪いのではない。会社が「うちを選ぶ理由は条件です」と発信したから、条件で選ぶ人が正しく反応しただけだ。
逆に、「この会社の考え方が好きだ」で入った人は、簡単には抜けない。多少しんどい時期があっても、「自分はここで働きたくて入ったんだ」という軸が、本人の中に残るからだ。
つまり採用は、待遇の勝負に見えて、実は「うちはこういう会社だ」をどれだけ言葉にできているか、の勝負になっている。
■ 求人票の前に、社長に聞く3つの質問
だから僕は、採用の相談を受けると、求人票ではなく社長本人に質問をする。順番はいつも同じだ。
① 今いる社員の中で、「この人がいてくれて助かっている」と思う人は誰ですか。
② その人の、どこがいいんですか。何をしてくれるから助かるんですか。
③ その良さは、入社前から見えていましたか。それとも、入ってから育ったものですか。
先週の社長も、①はすぐ名前が出た。詰まったのは②だ。「頼まれてないことに気づいて動く」「できない理由より、やる方法を先に言う」──ここで、社長の言葉が急に具体的になった。
これこそが、求人票に書くべきものだった。給料の桁ではなく、“うちで活きる人”の輪郭。会社が本当に必要としている人物像は、条件表のどこにも書いていなくて、社長の頭の中の「あの社員」の姿にこそ、隠れている。
■ 「どんな人でも歓迎」は、誰の心にも刺さらない
採用で一番もったいないのが、「未経験歓迎・誰でも活躍できます」という書き方だ。母数を増やしたい気持ちは分かる。でも「誰でも」は、裏を返せば「うちには、こういう人に来てほしいという意思がありません」という宣言でもある。
以前、このブログでも「“誰にでも”は“誰にも”届かない」と書いた。採用は、その最たる例だ。旗を立てないと、人は集まらない。「うちは、こういう仕事の仕方をする人と働きたい」とはっきり言い切った会社にだけ、「あ、それ自分のことだ」と反応する人が現れる。
先週の社長には、求人票の冒頭をこう書き換えてもらった。「マニュアル通りにやる人より、目の前の相手に何が必要かを自分で考えて動ける人と働きたいです」。応募数は、正直、前より少し減った。でも、面接に来た人の“合い方”がまるで違った、と後日連絡をもらった。
■ 採用がうまい会社は、たいてい自社を語れる
いろんな中小企業を見てきて、思うことがある。採用に強い会社は、特別に給料が高いわけでも、有名なわけでもない。ただ、社長も社員も「うちはこういう会社だ」を、自分の言葉で語れる。
それは、採用のためにわざわざ作った言葉じゃない。日頃から、自社が何を大事にして、どこへ行こうとしているのかが、社内で言葉になっている。だから求人票に落としても嘘っぽくならないし、面接で聞かれても即答できる。応募者は、その一貫性を敏感に感じ取る。
逆に言えば、「いい人が採れない」という悩みは、求人の悩みの顔をした、“自社をまだ言葉にできていない”という経営の悩みであることが多い。媒体を増やす前に、埋めるべき空欄は、社長の頭の中のほうにある。
■ 今日からできること
もし今、採用に手応えがないなら、求人票を直す前に一度だけやってほしいことがある。
「今いてくれて助かっている社員は誰で、その人の何がいいのか」を、紙に3行で書き出してみる。それだけでいい。そこに書かれた言葉が、あなたの会社が本当に求めている人物像であり、これから会社を一緒につくっていく“仲間の輪郭”だ。
採用は、頭数を埋める作業じゃない。会社の未来を、誰と一緒につくるかを決めることだ。だから僕は、採用の言語化も「未来の経営資産をつくる仕事」の一つだと思っている。
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