社員が「うちってこういう会社です」と言えない会社は、外にも伝わらない
「うちの会社、外向けの発信が弱くて」
そう相談をもらうことが、けっこうある。ホームページが古い、SNSをやっていない、パンフレットが十年前のまま。だから外に伝わっていないのだ、と。
その話を聞いたあとで、僕はいつも一つだけ質問をする。
「社員さんに“うちってどんな会社?”って聞いたら、何て返ってくると思いますか?」
ここで、多くの社長が黙る。
しばらくして返ってくるのは、たいてい「真面目な会社、ですかね」「人がいい、とは言うと思います」あたりだ。悪い答えではない。でも、それはその会社の輪郭になっていない。真面目で人がいい会社なんて、日本中にいくらでもある。
つまり、問題は外じゃないことがある。外に出す前の段階で、もう伝わっていない。
■ 会社の言葉を一番多く運んでいるのは、社長ではない
経営者は、自社について語る機会が多い。だから「会社の言葉を発しているのは自分だ」と思いやすい。
でも、回数で数えると逆転する。
採用面接の最後に、学生が「どんな会社ですか」と聞く相手は、たいてい現場の社員だ。取引先との雑談で「おたく、最近どう?」に答えるのも現場の社員。家族に「どんな仕事してるの」と聞かれて答えるのも、友人に「いい会社なの?」と聞かれて答えるのも、全部そうだ。
社長が年に何十回か語るあいだに、社員は何百回も語っている。しかも、利害関係のない場所で、素の言葉で。そっちのほうが、外から見たときの説得力は圧倒的に高い。
会社の言葉は、社長より先に社員から漏れる。そして、漏れたものが世間からの評価になる。
■ 「使われない言葉」は、なぜ使われないのか
理念やスローガンを作っている中小企業は、実は多い。額に入って社長室に掛かっている。朝礼で唱和している会社もある。
それでも社員が自社を語れないのは、たいてい理由が二つある。
一つは、言葉が抽象的すぎること。「感謝」「挑戦」「誠実」──それ自体は美しいけれど、日々の仕事の判断とつながらない。つながらない言葉は、覚えていても使われない。
もう一つは、言葉が現場の実感とズレていること。掲げているのは「挑戦」なのに、新しい提案を出すと必ず却下される。この状態で社員が「うちは挑戦する会社です」と外で言えるわけがない。言ったら嘘になるからだ。
言葉が社内で使われていない会社には、この二つのどちらかが必ずある。そして、使われていない言葉をホームページに大きく載せても、外に届く前に社内で止まる。
■ ある建設会社で起きたこと
以前、社員三十人ほどの建設会社の言語化をお手伝いしたことがある。
社長の悩みは「若手が育たない、すぐ辞める」だった。求人票も直したし、待遇も上げた。それでも定着しない。
社員に話を聞いていくと、面白いことがわかった。この会社、工期がきつい案件を何度か断っていた。粗利は良かったのに、だ。理由を聞くと、現場の職長がこう言った。
「急がせると、必ずどこかで手を抜くことになる。うちはそれをやらない会社なんで」
社長は、そんな話を自分の言葉にしていなかった。ただ「当たり前のこと」としてやってきただけだった。でも、現場は明確に理解していた。
僕たちが最終的に置いた言葉は、シンプルなものだった。
「早いより、間違えない」
かっこいい言葉ではない。でも、この会社の実際の判断の履歴から出てきた言葉だから、誰も違和感を持たなかった。何より、現場の人間がそのまま口に出せた。
半年後、その会社にお邪魔したとき、入社したての新人に若手社員が説明していた。「うちは“早いより、間違えない”を選ぶ会社なんです」と。
社長を経由せず、現場の言葉になっていた。あれが、僕にとっての本当の納品だ。
■ 社員が語れる言葉には、条件がある
事例から言えることを、三つに整理しておく。
① 自社の“実際の判断”から取り出すこと
理想から作った言葉は、現場でうまく機能しない。過去に何を断ったか、何にお金と時間をかけたか。判断の履歴のほうが、その会社の本性を正確に映している。
② 現場の人間が声に出せる語感であること
きれいな熟語より、日常会話に混ぜられる言葉のほうが強い。「品質第一」より「早いより、間違えない」のほうが、新人への説明でそのまま使える。
③ 迷ったときの答えになっていること
使われる言葉は、判断に効く言葉だ。「この案件、受けるべきか」と迷ったときに参照できるかどうか。参照されない言葉は、いくら掲げても飾りのままになる。
■ 発信を増やす前に、社内を見てほしい
ホームページを作り直すのも、SNSを始めるのも、悪いことじゃない。ただ、順番として、社員が自社を一言で説明できないまま外向けの発信量だけ増やすと、量に対して手応えが返ってこない。
外に出ていく情報のうち、会社がコントロールできるのは一部だけだ。残りの大部分は、社員一人ひとりの雑談から漏れていく。そこが揃っている会社は、発信を始めた瞬間から効きが違う。
だから僕は、ブランドの言葉をつくるとき「かっこいいか」よりも先に「社員が言えるか」を見ている。借り物の言葉は、社内で一度も使われないまま、静かに消えていくからだ。
一度、社員さんに聞いてみてほしい。「うちって、どんな会社だと思う?」と。
返ってきた言葉が、いま外に届いている自社の姿だ。そこにズレや空白があるなら、直すべきなのは外向けの見た目ではなく、まだ言葉になっていない中身のほうだと思う。
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