「3社に見積もりを出してもらったんですが、金額がバラバラで。どう選べばいいですか」
先日、そう言って相談に来た社長がいた。従業員20人ほどの、部品加工の会社だ。ホームページを10年ぶりに作り直したい。知り合いの紹介と検索で3社に声をかけたら、48万、120万、310万という見積もりが返ってきた。
「一番安いところでいいのか、それとも高いところには何か理由があるのか、判断がつかなくて」
もっともな悩みだと思う。デザインの見積書は、たいてい素人には読めないようにできている。「トップページデザイン 一式」「下層ページ 5P」「ディレクション費」──書いてある言葉はどれも似ているのに、金額だけが6倍違う。これで正しく選べというほうが無理だ。
3枚を並べて見せてもらった。そして、金額よりも先に気づいたことがあった。
3社とも、この会社のことをほとんど訊いていなかった。
見積書に書いていないもの
3枚の見積書に書いてあったのは、ページ数、工数、納期、そして保守費。つまり「何を、どれだけ、いつまでに作るか」だ。
書いていなかったのは、「なぜ作るか」だった。
この会社は今、何に困っているのか。誰に、何と思われたいのか。10年前のサイトの何が機能しなくなったのか。──その答えが1行もないまま、120万円の見積もりが出てくる。それは厳密には見積もりではなく、単価表だと思う。
もちろん、これは制作会社が悪いという話ではない。仕様がはっきりしている案件なら、この出し方がいちばん速いし、余計なコストも乗らない。問題は、発注する側が「これは単価表だ」と気づかないまま、金額だけで比べてしまうことだ。
金額差の正体は「どこから始めるか」
僕の見立てでは、制作の見積もりの差額は、腕の差でも良心の差でもなく、どこから仕事を始めるかの差であることが多い。
48万の会社:形から始める。デザインの好みと参考サイトを聞いて、それを形にする。中身はこちらが用意する前提。
120万の会社:整理から始める。今ある情報を構造化して、伝わる順番に並べ直す。原稿もある程度は手伝ってくれる。
310万の会社:中身から始める。何を言うべきかを一緒に掘るところから入る。言葉が決まってから、形に落とす。
どれが正しいという話ではない。自社に足りていないものが、形なのか、整理なのか、中身なのかによって、正解が変わるというだけだ。
中身がもう固まっている会社が310万を払うのは、たぶん払いすぎになる。逆に「うちのよさが伝わっていない気がする」と感じている会社が48万で形だけ作り直すと、きれいになったサイトを見ながら、半年後にまた同じもどかしさに戻ってくる。前より少し、諦めた状態で。
見分け方は「相手が何を訊いてくるか」
では、その会社がどこから始めるタイプなのか、どうやって見分けるか。
いちばん確実なのは、初回の打ち合わせで向こうが何を訊いてくるかを観察することだ。提案の内容より、質問の内容を見る。
ページ数・予算・納期・参考サイトしか訊かれなかったら、その会社はあなたの会社を「作業量」として見ている。速くて安い。仕様が固まっているなら最適解。
競合・客層・今の困りごとまで訊いてきたら、整理から入るタイプ。多くの案件はここで十分足りる。
なぜこの会社を始めたのか。今も続けている理由は。10年後どうなっていたいか。──ここまで訊いてくるなら、中身から入るタイプだ。時間も費用もかかるが、出てくるものは他社と交換できないものになる。
もう一つ、こちらから投げてみるといい質問がある。
「うちの会社の強みって、話を聞いてみて、どこだと思いますか」
これに、自分の言葉で仮説を返してくる相手は、あなたの会社を考えている。「御社の技術力ですね」で終わる相手は、まだ何も考えていない。この質問はタダででき、しかもかなり正確に見分けられる。
その後、この会社がどうしたか
冒頭の部品加工の会社は、結局どうしたか。
社長と2時間ほど話して分かったのは、この会社が困っていたのは「サイトが古いこと」ではなかった、ということだった。本当の困りごとは採用だった。求人を出しても、面接に来た人に会社の説明がうまくできない。だから「精密加工の会社です」で終わってしまう。
ところが話を聞いていくと、この会社には他社が真似しづらい特徴があった。試作段階の、図面が固まっていない仕事を断らない。むしろ「これ、こう変えたほうが作りやすいですよ」と設計に口を出す。取引先から「相談できる加工屋」として重宝されていた。社長にとっては当たり前すぎて、強みだと思っていなかった。
「図面どおりに作る会社ではなく、図面を一緒に直す会社」
この一文が決まってから、ようやくサイトの話をした。結果、トップページに載せるものが全部変わった。設備一覧ではなく、「相談から始まった仕事」の事例を前に出す構成になった。
そしてこの一文は、サイトの外でも使われた。求人票の見出し、会社案内の1ページ目、社長が展示会で名刺を渡すときの一言目。──サイトのために掘った言葉のはずが、いちばん効いたのはサイトの外だった。
これは、僕がいつも起きてほしいと思っていることでもある。中身を先に掘っておくと、それは今回の制作物だけでなく、その後の全部に効く。だから僕は自分の仕事を「未来の経営資産をつくること」だと呼んでいる。
選ぶ前に、決めておくこと
制作会社を選ぶのが難しいのは、相手の力量が見えないからではない。自社が今回、何を買おうとしているのかが決まっていないからだと思う。
だから見積書を3枚並べる前に、社長ひとりで5分でいい、これを決めておいてほしい。
今回足りていないのは、形か。整理か。中身か。
ここさえ決まっていれば、3枚の紙は急に読めるようになる。金額の差が、値段の差ではなく、範囲の差として見えてくるからだ。そして、その範囲が自社に必要ないなら、堂々と安いほうを選んでいい。
いちばんもったいないのは、中身が足りていない会社が、形だけを安く買い直すことだ。それは節約ではなく、同じ場所をもう一周することになる。
COLORSDRIP では、中小企業の思想・価値・目指す姿を言語化し、デザインによって“未来の経営資産”に変えるお手伝いをしています。「うちに足りていないのは、形なのか中身なのか」から一緒に整理したい方は、まず気軽に話を聞かせてください。→ [HP相談フォーム / LINE]

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