AIに「どれも、よそでも言えますよね」と言われた日
― 中小企業がAI時代に外注すべき、たった一つのもの
準備万端のつもりだった提案
去年の話をする。あまり気持ちのいい話ではないけれど、書いておきたい。
ある製造業の会社から、コンセプトとロゴの相談をもらった。社員30人ほど、創業40年。二代目の社長が、これから10年をどう戦うかを考えているタイミングだった。
僕は初回のヒアリングを2時間ほどやって、メモを持ち帰った。そこから提案までは2週間。当時、僕はAIの使い方をちょうど掴みはじめていて、これは効率化できるぞ、と思った。
ヒアリングメモを材料に、コンセプト案を20個ほど出した。それぞれにキーワードとタグラインをつけて、方向性の違うものを並べた。昔なら3日かかっていた作業が、半日で終わった。言葉もきれいに整っていた。誤字もない。ロジックも通っている。
僕は「今回は準備万端だ」と思って、提案の場に行った。
社長は資料を一通りめくって、しばらく黙って、こう言った。
「どれも、よそでも言えますよね」
反論できなかった。その場で「たしかにそうですね」としか言えなかった。
何が悪かったのか
帰りの車の中で、原因を考えた。最初は「AIに頼りすぎたからだ」と思った。でも、それは違った。
問題は、AIに渡した材料のほうだった。
僕が持ち帰ったヒアリングメモを読み返すと、書いてあるのは事業内容、取引先の業種、社長が「大事にしている」と言った価値観のキーワード。──全部、その会社のホームページを読めば分かる範囲のことだった。
「誠実」「技術力」「顧客第一」。そういう言葉が並んでいた。
浅い材料からは、浅いアウトプットしか出ない。当たり前だ。ただAIが厄介なのは、浅い材料を、上手に整えてしまうことだ。整った20案が並ぶと、自分では「たくさん考えた」気になる。中身が薄いことに、自分で気づけなくなる。
昔、手で1案ずつ書いていた頃は、書きながら「あれ、これ何も言ってないな」と手が止まった。あの詰まる感覚が、材料不足を教えてくれるセンサーだった。効率化して、僕はそのセンサーごと外していた。
掘り直して出てきたもの
後日、あらためて時間をもらって、社長ともう一度話した。今度は聞き方を変えた。
過去に断った仕事の話を聞いた。値下げを求められて、断った案件。急ぎだからと図面の検査工程を省いてほしいと言われて、断った案件。「うちはそれをやると、自分たちが嫌になるので」と社長は言った。
先代の話も聞いた。先代は、不良品を出したとき、原因が分かるまで工場のラインを止めた人だったという。「売上が飛んでも止めた。あれで潰れかけたこともある」と、社長は少し笑いながら言った。
そして、社長がふと漏らした一言があった。
「うちは、速く作る会社じゃないんですよ。やり直しが要らない会社なんです」
これだ、と思った。
「技術力」でも「品質」でもない。断ってきた仕事の履歴と、ラインを止めた先代の背中と、二代目がそれを受け継いでいる事実。そこから出てきた一文だった。よそでは言えない。その会社の判断の履歴の中からしか出てこない言葉だからだ。
結果的に、その言葉がコンセプトの中心になった。ロゴも、会社案内も、採用ページも、全部そこから逆算して作った。半年後、社長は「面接でこの話をすると、応募者の目の色が変わる」と教えてくれた。
AIで十分な領域と、そうでない領域
ここまで書くと「AIを使うな」という話に聞こえるかもしれないけれど、まったく逆だ。僕は毎日使っているし、これから使わない選択肢はないと思っている。
線を引くとしたら、こうだ。
AIに任せていい(むしろ任せるべき)
基準が決まったあとの制作。SNS画像、社内資料、チラシの差し替え、定型の原稿。
案出しの幅出し。ゼロから10案を並べる作業。
推敲、要約、体裁を整えること。
任せられない
何を捨てるかを決めること。
自社の判断の履歴を掘り当てること。
出てきた案のどれが「自社らしい」かを見分けること。
前者は作業で、後者は意思決定だ。そして中小企業の経営者が本当に困っているのは、いつも後者のほうだった。
「デザイン、AIでできちゃうから外注減らそうと思って」と言われることがある。僕は「その通りだと思います」と答える。作るだけなら、社内でやったほうが速いし安い。
ただ、そのあとにこう聞く。「作る基準は、もう決まっていますか?」
ここで詰まる会社が、ほとんどだ。基準がないままAIで量産すると、それっぽいものが大量に増えて、会社の顔がむしろぼやける。先月と今月でトーンが違う、担当者ごとに言うことが違う、という状態になる。作れる量が増えたぶん、ブレも増幅される。
外注すべきものは、一つだけ
だから僕は、これからの中小企業が外に頼むべきものは、一つに絞られていくと思っている。
自社の判断基準を、言葉にする工程。
ロゴでもサイトでもチラシでもない。「うちは何者で、何をやらないのか」を掘り当てて、誰が見ても分かる形にすること。それさえ決まっていれば、あとの制作はAIと社内で回せる部分がどんどん増える。
そしてこの工程は、たぶん一番AIから遠い。過去に何を断ったか、なぜ止めたか、誰が何を守ってきたか。それは社長の頭の中と、会社の歴史の中にしかない。外から質問して、掘り出して、言葉に翻訳する作業が要る。
僕がやっている仕事を一言で言うと、それだ。デザイナーというより、経営者の隣で一緒に言葉を掘る参謀のつもりでいる。
あの日「どれも、よそでも言えますよね」と言われたのは、痛かったけれど、ありがたかった。おかげで、自分の仕事のどこが価値で、どこが作業なのかがはっきりした。
作業は、これからどんどん安くなる。
価値は、掘る深さのほうに残る。
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