ホームページより先に、会社案内を直したほうがいい会社がある
「ホームページ、そろそろ作り直したいんですけど」
そう言って来られた社長に、僕はいつも同じ質問を返す。
「いまのお仕事、どこから来ていますか?」
先日も、そう聞いた。返ってきた答えは、ほぼ即答だった。
「紹介と、既存のお客さんからの追加ですね。九割そうです」
その瞬間、僕の頭の中では、話がホームページから離れていた。
サイトは「見つけてもらう」道具、会社案内は「決めてもらう」道具
ホームページには、はっきりした役割がある。まだ会っていない人に、探して、見つけて、読んでもらうこと。相手が能動的に動いてくれることが前提の道具だ。
一方で、紹介や商談は逆だ。相手はもう目の前にいる。あるいは、紹介してくれた人の隣にいる。見つけてもらう工程は、すでに終わっている。
そこで必要なのは「見つけてもらう力」ではなく、「その場で腹落ちしてもらう力」だ。
BtoBの中小企業、とくに紹介と既存取引で回っている会社では、勝負がつく場所がサイトではないことが本当に多い。それなのに、直す対象としていちばん最初に名前が挙がるのはサイトなのだ。理由は単純で、サイトのほうが「古くなったこと」が目に見えてわかるからだと思う。
会社案内が本当に効く、3つの瞬間
僕が見てきた限り、紙の会社案内が効くのは、だいたいこの3つの場面だ。
1. 商談の終盤
値段でも仕様でもなく、「で、御社って結局どういう会社なんですか」と聞かれる瞬間がある。ここで社長が口頭で語り切れるかどうかで、決裁の通りやすさが変わる。語った内容が紙になって手元に残ると、その場にいなかった決裁者にも同じ話が届く。
2. 紹介が“また貸し”されるとき
紹介してくれた人は、あなたの会社の営業マンではない。うろ覚えのまま、善意で誰かに勧めてくれる。そのとき手元に一枚あれば、その人はあなたの言葉であなたの会社を説明できる。紹介の精度は、紹介者の記憶力ではなく、渡してある資料の出来で決まる。
3. 採用面接
求人票では「安定・アットホーム」しか書けなかった会社でも、面接の場で一枚渡せると話が変わる。応募者が家に持ち帰り、家族に見せる。中小企業の採用で、この“持ち帰り”は思っている以上に重い。
効かない会社案内には、共通点がある
そのうえで、正直に書く。世の中の会社案内の多くは、あまり働いていない。理由は、たいてい次の3つに集約される。
沿革と設備写真で埋まっている。
創業年、資本金、工場の外観、機械の写真。これは「実在の証明」であって、「選ぶ理由」ではない。読み手が知りたいのは、あなたの会社が何を大事にして、どんな判断をしてきたかだ。
誰に渡すか決めていない。
新規の見込み客も、既存客も、応募者も、金融機関も、全部一冊でまかなおうとすると、誰にも刺さらない総花的な冊子になる。中小企業なら、優先順位の一位だけを決めて、そこに寄せたほうがいい。
その場で全部読ませようとしている。
商談の場で、相手は読まない。開いて3秒で「あ、そういう会社ね」と思ってもらい、残りは持ち帰ってから読まれる。だから1ページ目に情報を詰めるのは逆効果で、置くべきなのは、一文で言い切った「うちは何者か」だ。
つくる前に決める、4つのこと
実務の順番としては、僕はいつもこう進めている。
① 使われる瞬間を1つに決める
商談の終盤なのか、紹介の又貸しなのか、面接なのか。ここを決めないままデザインに入ると、確実に総花的になる。
② 一文の答えを用意する
「御社って、どういう会社なんですか」への回答を、一文で書く。ここが書けないうちは、ページ数を増やしても薄まるだけだ。この工程がいちばん時間がかかるし、いちばん価値がある。
③ 判断の履歴を3つ選ぶ
強みを形容詞で並べるのではなく、「こういうとき、うちはこちらを選んできた」という判断の実例を出す。断った仕事の話が入っていると、一気に信用度が上がる。
④ 分量を決め打ちする
中小企業なら、多くの場合A4三つ折りか、8ページ前後で足りる。20ページの冊子は作るのも更新するのも重く、結局机の引き出しで眠る。
「サイトは作らなくていい」という話ではない
念のため書いておくと、これは「ホームページは要らない」という話ではまったくない。
いまはどんな経路で知った相手でも、必ず一度は社名で検索する。紹介された直後にも検索する。そこに何も無かったり、十年前のまま止まっていたりすれば、それだけで信用は目減りする。サイトは「選ばれるための道具」というより「落選しないための最低条件」に近い場所へ移った、というのが僕の実感だ。
だから順番の問題なのだ。受注が紹介と商談で決まっている会社なら、限られた予算をまずどちらに置くべきか。それだけの話をしている。
中身は一つ、器はいくつでもいい
ここまで書いてきて、たぶんお気づきだと思う。
会社案内に載せるべき中身と、ホームページに載せるべき中身は、ほとんど同じだ。うちは何者で、何は譲らなくて、誰の役に立ってきたのか。違うのは、どの場面で、どんな順番で手渡すかだけ。
逆に言えば、その中身が言葉になっていない会社は、サイトを作り直しても、会社案内を新調しても、同じところでつまずく。器を増やしても、載せるものが増えないからだ。
これは、多くの会社にとって、けっこう救いのある話でもある。一度きちんと言語化しておけば、それはサイトにも、会社案内にも、営業トークにも、求人票にも、そのまま効いていく。何年も効き続ける。一回の制作費ではなく、その先ずっと使う資産として見られるようになる。
冒頭の社長の話に戻ると、結局その会社は、サイトのリニューアルを半年後ろにずらした。先にやったのは、社長の頭の中にあった「うちが断ってきた仕事の基準」を言葉にすることと、それを載せた八ページの会社案内だった。
半年後、「あの資料、営業がいちばん持っていきます」と聞いた。僕にとっては、それが納品だ。
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