「会社の言葉は、誰のために残すのか ― 十年後、迷った誰かが開くために」

「会社の言葉は、誰のために残すのか ― 十年後、迷った誰かが開くために」

Kenta Torii

Knowledge

会社の言葉は、誰のために残すのか ― 十年後、迷った誰かが開くために

先週、3年前にブランディングをやらせてもらった会社から、メールが届いた。

新しい相談かと思って開いたら、報告だった。「先日、大口の仕事を断りました。あのとき決めた言葉に照らして、うちがやる仕事じゃないと、全員で判断できました」。金額としては、その年でいちばん大きい話だったらしい。それを、社長ひとりの決断ではなく、その場にいた全員が同じ結論に辿り着いたという。

僕は、この報告を読んで、ようやくあの仕事が納品されたと思った。

■ できた瞬間が、いちばん効かない

正直に書くと、その言葉を作った当時、社長の反応は薄かった。

最終案を持っていった日、「まあ、こんなもんですかね」と言われた。手を抜いたわけではない。何ヶ月もかけて社長と社員に話を聞き、この会社が何を選んできたのかを掘り、削って削って、最後に数行残した。それでも、薄かった。

でも僕は、その反応でいいと思っている。

会社の言葉は、できた瞬間がいちばん効かないからだ。作った本人にしてみれば、当たり前のことを、当たり前に書いただけに見える。当然だ。もともとその会社の中にあったものを掘り出したのだから、新しさなんてない。むしろ、読んだ社長が「知らなかった」と驚くような言葉が出てきたら、それは掘り当てたのではなく、こちらが作り話をしただけだ。

言葉が効きはじめるのは、もっとあとだ。判断に迷う場面が来てからだ。

■ 効き目は「決める場面」にしか現れない

会社には、答えのない場面が定期的にやってくる。

この商品を出すか、やめるか。この値引きを飲むか、断るか。この人を採るか、見送るか。教科書に正解が書いていない問いばかりで、しかも、たいてい時間がない。

そういうとき、「うちはこう決める会社だ」という一文があるかどうかで、会議はまったく別のものになる。

無い会社の会議は、声の大きい人の意見か、いちばん金額が大きい選択肢に寄っていく。決めたあとも、誰かが「本当にあれで良かったのか」と引きずる。決断そのものより、決断のあとの迷いに時間を取られる。

ある会社の会議は、短い。「これ、うちの言ってることと合ってないですよね」の一言で、議論が終わる。断ったあとも、全員が理由を言えるから、あとを引かない。

ブランディングの成果は、売上より先に、この「判断のスピードと納得感」に出る。僕が何度も現場で見てきたのは、そこだ。

■ 誰のために書くか

だから僕は、言葉を作るとき、目の前の社長だけを見ていない。

いま社内にいない人のことを考えている。三年後に入ってくる社員。十年後、社長が現場から離れたあとに、その席に座る誰か。判断に迷って、事務所の壁に貼ってある紙をふと見上げる人。その人が読んで意味が分かるかどうかで、言葉を選んでいる。

この基準を持つと、選ぶ言葉が変わる。

きれいなキャッチコピーより、多少ぶかっこうでも「これは、うちがやらないことだ」とはっきり分かる文を採る。「地域のために」より、「近い順に受ける。遠くて安い仕事は、断る」のほうを採る。前者は誰も否定できないが、誰の判断も助けない。後者は反論の余地があるぶん、実際に使える。

会社の言葉は、鑑賞するためのものではなく、使うためのものだ。使う人は、いつも未来にいる。

■ 消耗品の言葉と、資産になる言葉

世の中の言葉の多くは、消耗品としてつくられている。

キャンペーンのコピー、季節の販促、採用シーズンのメッセージ。それ自体は必要だし、僕も書く。ただ、それらは役目を終えれば消える。今年使った言葉を来年も使えるかというと、たいていは使えない。

一方で、何年経っても引き出される言葉がある。会社が何を大事にして、何を捨てるのかを決めている言葉だ。これは減らない。むしろ、使われるたびに社内での意味が濃くなっていく。判断に使われた実績が、その言葉の重みになるからだ。

僕が「デザインを未来の経営資産に変える」と言っているのは、この違いのことだ。

資産と呼べるのは、時間が経つほど効きが強くなるものだけだ。ロゴも、サイトも、会社案内も、その裏にこの手の言葉が通っていれば資産になる。通っていなければ、数年で作り直すことになる消耗品にしかならない。同じ金額を使っても、そこで差がつく。

■ なぜ、そこまでやるのか

僕がこの仕事をしている理由は、正直、そんなに複雑ではない。

ワクワクして働く大人を、増やしたいだけだ。

自分の会社が何者かを言葉にできている会社では、社員が自分の判断に理由を持てる。上司に訊かなくても決められる場面が増える。断ったことを、後ろめたく思わずに済む。それは、働くことのストレスをかなりの量で減らす。

そして、自分の仕事に誇りを持てる大人は、家でその話をする。子どもは、楽しそうに働く親の背中を見て育つ。大げさに聞こえるかもしれないが、僕は本気でそう思っている。会社の言葉を残すことは、そこまで届く仕事だ。

だから僕は、目の前の社長を説得するための言葉ではなく、まだ会っていない誰かが使える言葉を書く。

■ ひとつだけ、試せること

大きな話に聞こえたなら、ひとつだけ試してほしいことがある。

次の社内の会議で、社長は何も言わずに座っていてほしい。そして、社員が何を根拠に意見を言うかを聞いてほしい。

「前もこうだったから」「社長がそう言っていたから」しか出てこないなら、会社の言葉は、まだ社長の頭の中にある。誰かが自分の言葉で「うちはこういう会社だから」と言ったなら、それはもう、外に出はじめている。

会社の言葉は、社長がいない場所で使われて、はじめて資産になる。

COLORSDRIP では、中小企業の思想・価値・目指す姿を言語化し、デザインによって“未来の経営資産”に変えるお手伝いをしています。「うちの場合はどうだろう?」と思った方は、まず気軽に話を聞かせてください。→ [HP相談フォーム / LINE]

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デジタル領域が得意なデザイナー。日頃から海外のトレンド情報や最新技術をインプットし、お客さまに価値を届けます。

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