「“誰を呼ぶか”を間違えて、半年を溶かした ― ブランディングの打ち合わせに、同席させるべき人・外すべき人」

「“誰を呼ぶか”を間違えて、半年を溶かした ― ブランディングの打ち合わせに、同席させるべき人・外すべき人」

Kenta Torii

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「“誰を呼ぶか”を間違えて、半年を溶かした ― ブランディングの打ち合わせに、同席させるべき人・外すべき人」

半年かけて、何も決まらなかった案件がある。

従業員30人ほどの製造業。二代目が就任したタイミングで、「会社の方向性を言葉にして、それに合わせてロゴもサイトも整えたい」という相談だった。予算もあり、社長の意欲もあり、社員の雰囲気も良かった。条件としては、かなり恵まれていたと思う。

それでも、進まなかった。

理由は、あとから振り返ればひとつだった。僕が、打ち合わせに呼ぶ人を間違えていたのだ。

■ 失敗①:良かれと思って、全員を呼んだ

最初の相談で、社長がこう言った。「社員みんなで作りたいんです。上から降ってきた理念にはしたくない」。

その気持ちは、正しいと思った。実際、社員が自分の言葉として使えない理念は、額縁の中で死ぬ。だから僕は、20人規模のワークショップを組んだ。付箋を配って、グループに分けて、「うちの会社の良いところ」「大事にしていること」を書き出してもらった。

場は、和やかだった。付箋もたくさん貼られた。写真映えもした。

そして、出てきた言葉がこれだった。

「お客様第一」「誠実」「チームワーク」「品質にこだわる」。

誰も嘘をついていない。むしろ全員が真面目に書いてくれた。でも、その会社にしか言えない言葉は、ひとつもなかった。

なぜか。20人の前で、本音を言える人がほとんどいなかったからだ。

社長がいる。上司がいる。同僚がいる。その空気の中で「うちの営業、正直けっこう強引ですよね」とは書けない。「うちが選ばれてるのって、たぶん技術じゃなくて、電話に必ず出るからだと思います」とも書けない。──後になって個別に話を聞いたとき、まさにこの二つが出てきた。会社の輪郭は、そういう身も蓋もないところにある。

人数が増えるほど、言葉は無難な方向に丸まる。当たり前のことなのに、僕は「全員参加=民主的で良いこと」だと思い込んでいた。

■ 失敗②:反省して、今度は社長ひとりに絞った

次の案件で、僕は逆に振り切った。社長とふたりきりで、じっくり掘る。人数が少なければ本音が出るはずだ、と。

たしかに、社長の本音は出た。創業の経緯、悔しかった話、これからやりたいこと。話としては最高に面白かった。そこから作ったコンセプトも、社長は「まさにこれです」と喜んでくれた。

問題は、そのあとだった。

社員に共有した瞬間、空気が固まったのだ。「言ってることは分かるんですけど、現場はそうなってないですよね」。

社長が語っていたのは、この会社の“理想”だった。そして理想は、現場の実態と何段階かズレていた。ズレていること自体は悪くない。悪かったのは、そのズレを誰も指摘しないまま形にしてしまったことだ。結果、社員から見れば「社長が外の人と決めてきた、上から降ってきた言葉」になった。

一つ目の失敗の、ちょうど裏返しだった。

■ いま僕が、最初の打ち合わせに呼ぶ人

この二つを経て、いまはこうしている。掘る段階の席は、原則3つまで。

1. 決める人(社長・決裁者)
ブランディングで最後にやることは、足し算ではなく引き算だ。「うちは、これはやらない」「この客層は追わない」を決める。これは決裁権のある人にしか決められない。社長が出られない打ち合わせは、日程をずらしたほうが結果的に早い。

2. お客さんにいちばん近い人(現場)
営業でも、修理でも、受付でもいい。「実際にお客さんに何と言われているか」を一次情報で持っている人。理想を、現実で殴ってくれる存在がいないと、言葉は浮く。

3. その言葉を運ぶ人(採用・広報・後継者)
決まった言葉を、いちばん多く外に持ち出す立場の人。この人が納得していないと、どれだけいい言葉でも使われずに終わる。

この3人がいると、「行きたい方向」「いまの実態」「これから使う場面」が同じテーブルに乗る。だから議論が、抽象論で終わらない。

先日の案件では、社長が「うちの強みは提案力です」と言った横で、営業の人が「お客さんが褒めてくれるのは、だいたい納期の話ですよ」と言った。社長は少しムッとしたあと、「……たしかにな」と笑った。あの一往復で、その会社の価値の在り処が決まった。ふたりだけの打ち合わせでは、絶対に出てこない言葉だ。

■ 逆に、最初は外したほうがいい人

これは言いにくい話だが、正直に書く。外したほうがいいのは、「立場で発言する人」だ。

役職上そう言わざるを得ない人、その場の落としどころを探るのが上手い人、社長の意向を先回りして代弁してくれる人。悪意はない。むしろ組織を回すには必要な人たちだ。ただ、掘る段階の場では、その人がいるだけで空気が「正解探し」に変わってしまう。

反対意見を言う人を外せ、という意味ではない。むしろ逆で、率直に反対してくれる人は最初から入れたほうがいい。外すべきなのは、反対する人ではなく、本音を言えなくさせる人だ。

■ 全員参加は、いつやるか

誤解のないように書いておくと、僕は全員参加が無駄だとは思っていない。順番の問題だと思っている。

少人数で掘り当てて、決める。そのうえで、全員に開く。開く場では、白紙から書かせるのではなく、「こういう言葉になったが、あなたの仕事だとこれはどういう場面のことか」を語ってもらう。抽象を具体に翻訳してもらう作業だ。これなら人数が多いほど効く。

順番を逆にすると、全員で薄めることになる。僕が半年溶かしたのは、この順番を間違えたからだった。

■ 打ち合わせの前に、決めておくこと

もしこれからブランディングやリニューアルを外に相談するなら、依頼内容を固める前に、これだけ決めておくといい。

その席に、決める人と、お客さんに近い人が、両方いるか。

これが揃っていない打ち合わせは、どれだけ回数を重ねても、きれいな理想論か、現場の愚痴のどちらかに寄っていく。逆にこの二人が揃っていれば、初回の2時間で、その会社の輪郭がかなりの精度で見えてくる。

会社の言葉は、多数決では決まらない。かといって、社長ひとりの頭の中からも出てこない。

決める人と、現場を知っている人。その二人が同じテーブルで話した内容の中にしか、その会社にしか言えない言葉は落ちていない。

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デジタル領域が得意なデザイナー。日頃から海外のトレンド情報や最新技術をインプットし、お客さまに価値を届けます。

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