「『うちには特徴がない』と言う社長ほど、いい会社だった ― 自社の強みが、自分にだけ見えない理由」

「『うちには特徴がない』と言う社長ほど、いい会社だった ― 自社の強みが、自分にだけ見えない理由」

Kenta Torii

Knowledge

「うちには、特に特徴がないんですよ」

初回の打ち合わせで、いちばんよく聞く言葉だ。業種も規模も関係なく、たぶん七割くらいの社長が、どこかのタイミングでこれを言う。しかも決まって、少し申し訳なさそうに言う。せっかく来てもらったのに大した話ができなくてすみません、という顔で。

でも僕は、この言葉をほとんど信じていない。

特徴のない会社が、二十年も三十年も続くことはないからだ。続いているということは、誰かがその会社を選び続けているということで、選ばれるには必ず理由がある。理由がないのに選ばれ続ける、ということは起きない。値段が安いからだ、という説明もよく聞くけれど、本当に価格だけで選ばれているなら、もっと安いところが現れた時点で仕事は消えている。消えずに残っているなら、価格以外の何かが効いている。

問題は、その「何か」が、社長本人にだけ見えないことだ。

強みは、続けた瞬間から見えなくなる

理由はたぶんシンプルで、強みは、社内で当たり前になった瞬間に見えなくなる。

人間は、毎日やっていることを特別だと思えない。最初は意識してやっていたことも、三年も続ければ習慣になり、十年続ければ風景になる。風景になったものは、もう目に入らない。自分の家の匂いが自分では分からないのと同じで、近すぎるものは認識から外れる。

だから、社内で「うちの強み」として語られるのは、たいてい後から足したもののほうだ。新しく入れた設備、最近取った資格、去年始めたサービス。意識して増やしたものは覚えているから、強みとして口に出せる。逆に、創業のときから当たり前にやってきたこと、面倒だけどやめられずに続けてきたことは、誰の口にも上らない。

ところが、外から見て価値があるのは、たいてい後者のほうなのだ。

「強みは何ですか」は、効かない質問だった

以前は僕も、ヒアリングの最初に「御社の強みは何ですか」と聞いていた。今はもう聞かない。あの質問は、答える側に自己評価を求めてしまうからだ。

自己評価を求められると、人は無難な言葉に逃げる。「丁寧な対応です」「お客様第一です」「スピード感です」。嘘ではないのだけれど、どの会社でも言えることなので、判断材料にならない。しかも一度その言葉が出てしまうと、以降の会話が全部その言葉に引っ張られる。まだ掘っていない場所があるのに、掘る前にフタをしてしまう。

だから今は、意見を聞かずに事実だけを聞くようにしている。具体的には、この三つだ。

ひとつめ。直近で受注できた仕事について、お客さんが何と言って決めたか。

思い出せる範囲で、三件ぶんくらい並べてもらう。問い合わせの経緯、聞かれたこと、最後の一言。ここには自己評価が入り込む余地がないので、事実がそのまま出てくる。三件並べると、たいてい同じ種類の言葉が繰り返し出てくる。それが、外から見えている自社の輪郭だ。

ふたつめ。他社でも済むはずなのに、それでも頼んでくる人は、何を買っているのか。

商品そのものを買っているなら、どこで買っても同じはずだ。それでも指名で来るなら、商品以外の何かに対価が払われている。判断の速さかもしれないし、無理を言える関係かもしれないし、間違えたときの対応かもしれない。ここを言葉にできると、値付けの根拠にもなる。

みっつめ。他社ならやめるだろうけど、うちはどうしてもやめられない手間は何か。

これがいちばん当たりが多い。ある会社では、見積もりを出す前に必ず現場を見に行っていた。写真で済ませたほうが早いし、その分の費用ももらっていない。それでも二十年やめていない。理由を聞いたら、「見に行かないと後で条件が変わって、結局お客さんに追加をお願いすることになるから」だった。

これが強みでなければ、何なんだろうと思う。でも本人にとっては、ただの当たり前だった。「特徴ですね」と言ったら、きょとんとされた。

見つけただけでは、まだ資産にならない

ここからが本題かもしれない。

こうして掘り当てた事実は、そのまま書いてもあまり効かない。「必ず現場を見てから見積もりを出します」とホームページに書いても、読む側は「へえ」で終わる。比較する対象を知らない人には、それが手間なのかどうかすら分からないからだ。

効かせるには、二つ必要になる。

ひとつは、比較の中に置くこと。何をしないのか、なぜそうしないのかまで書く。「写真だけで見積もりを出すこともできますが、うちはやりません。後から条件が変わって、追加費用をお願いすることになるからです」。ここまで書いて、はじめて手間の意味が伝わる。

もうひとつは、その手間が守っているものを言葉にすること。現場を見に行くのは、お客さんに追加を頼まないためだ。つまりこの会社が守っているのは「最初に出した金額を動かさない」という一線で、現場確認はその手段にすぎない。ここまで抽象化できると、他の場面にも使えるようになる。新しいサービスを作るときも、社員が判断に迷ったときも、同じ一線で決められる。

強みを見つける作業は、実は判断基準を見つける作業だ。だから僕は、これを「未来の経営資産をつくる」と呼んでいる。今年の受注のためだけじゃなく、五年後、十年後に誰かが迷ったときに立ち返れるものになるからだ。

特徴がないんじゃない、近すぎるだけだ

「うちには特徴がない」と言う社長ほど、話を聞き終えたときに強い会社であることが多い。

理由は、たぶん謙虚だからじゃない。当たり前を積み上げてきた年月が長い会社ほど、その当たり前が風景に溶けているからだ。何もやってこなかった会社に、そもそも溶けるほどの積み重ねはない。

だから、もし今「うちには売りがない」と感じているなら、探しにいく必要はないと思う。すでにやっていることの中に、たぶんある。ただ、近すぎて見えていないだけだ。

見えていないものは、自分ひとりでは見つけにくい。外から、事実だけを並べて聞いてくれる人がいると、驚くほどあっさり出てくることがある。僕がやっているのは、要するにそれだ。

COLORSDRIP では、中小企業の思想・価値・目指す姿を言語化し、デザインによって“未来の経営資産”に変えるお手伝いをしています。「うちの場合はどうだろう?」と思った方は、まず気軽に話を聞かせてください。→ [HP相談フォーム / LINE]

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デジタル領域が得意なデザイナー。日頃から海外のトレンド情報や最新技術をインプットし、お客さまに価値を届けます。

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