「採用のミスマッチは、求人票を直しても止まらない ― 先に言葉にすべきは“うちでは活きない人”だ」

「採用のミスマッチは、求人票を直しても止まらない ― 先に言葉にすべきは“うちでは活きない人”だ」

Kenta Torii

Knowledge

採用のミスマッチは、求人票を直しても止まらない

きれいな採用ページを作って、半年で辞められた話

数年前、ある会社の採用ページを作った。

社員十数人の、技術で食べている会社だった。人が採れないという相談で、写真を撮り直し、社員インタビューを載せ、働く環境の魅力をきちんと言葉にした。デザインとしては、悪くない出来だったと思う。

実際、応募は増えた。社長にも喜ばれた。

その半年後、採用した人が辞めたと聞いた。しばらくして、もう一人も辞めた。

僕は自分の仕事が悪かったのかと思って、ページを読み返した。嘘は一つも書いていない。写真も社員の言葉も本物だ。それでも辞めている。

理由は、あとから社長と話していて分かった。あのページには、その会社で働くのがしんどい部分が、一行も書かれていなかった

納期の直前は全員で手を動かす。役割の線引きは曖昧で、営業も見積もりも設計も、状況次第で越境する。それがその会社の強みであり、同時に、人によっては耐えられない部分だった。

僕は魅力だけを翻訳して、前提を翻訳しなかった。それが、あの失敗の中身だ。

求人票は、放っておくと角が取れる

採用がうまくいかないと相談を受けて、求人票や採用ページを読ませてもらうと、書いてあることはだいたい正しい。

アットホームな職場。風通しのいい社風。成長できる環境。若手にも裁量がある。

嘘ではない。実際そのとおりの会社であることも多い。問題は、それがどの会社の求人票とも交換できてしまうことだ。

なぜこうなるかというと、採用の文章は放っておくと必ず「減点されない方向」に寄るからだ。応募が減るのが怖いので、尖った部分を削る。誤解されるのが怖いので、条件を丸める。結果として、角が取れて、当たりさわりのない文章になる。

そうやって書かれた文章は、応募数を増やす。ただし、増えるのは「うちに合う人」だけではない。「うちでは活きない人」も同じ比率で増える。そして選考でも見抜けず、入社してから、お互いに気づく。

採用コストの本当の痛みは、募集にかけた広告費じゃない。合わない人が入って、教えて、悩んで、辞めるまでの数ヶ月から一年だ。そこで消えるのは、現場の時間と、残った社員の気力だと思う。

「どんな人に来てほしいか」からは、何も出てこない

だから僕は、採用の言葉づくりを頼まれたとき、「どんな人に来てほしいですか」から入らない。

この質問をすると、ほぼ全ての会社が同じ答えに着地するからだ。素直で、主体的で、成長意欲があって、コミュニケーションが取れる人。──それは求める人物像ではなく、ただの理想の人間の定義だ。そこに、その会社の輪郭は一つも入っていない。

代わりに訊くのは、こっちだ。

「これまで辞めていった人に、共通点はありますか」

最初はたいてい「たまたまです」と言われる。人が辞めた話は、社長にとって気持ちのいい話ではない。だから僕は、評価の話は一旦脇に置いて、事実だけを一人ずつ挙げてもらう。前職はどこだったか。何が理由で入ってきたか。どのタイミングで、何と言って辞めたか。

三人か四人並べると、線が見えることが多い。

ある会社では、辞めた人が全員、分業のきっちりした大きな組織の出身だった。ある会社では、辞めた人が全員、入社の決め手として「安定していそうだから」と言っていた。またある会社では、社長が細かく口を出す工程が決まっていて、そこを自分の裁量だと思った人から順に辞めていた。

これは辞めた人の欠点ではない。その会社が、無自覚に人に求めていた前提だ。社内では当たり前すぎて、誰も言葉にしていなかっただけで。

合わない人を言葉にする、三つの問い

実際に僕が使っているのは、次の三つだ。

一つ目、辞めた人・活躍している人を、事実で並べる。評価ではなく、経歴と発言と時期だけを書き出す。両側から見ると、線が二本引ける。

二つ目、「うちでは、これは自分でやってもらいます」を挙げる。他社なら誰かがやってくれるが、うちでは本人がやること。ここに会社の実像がいちばん出る。

三つ目、「入ってから知って驚かれること」を全部出す。繁忙期の忙しさ、意思決定の速さ、社長との距離の近さ。隠したくなるものほど価値がある。入社後に必ずバレる情報は、先に出したほうが得だからだ。

この三つを並べると、「うちでは活きない人」が具体的な文章になる。そこまで来て初めて、求める人物像が、他社と交換できない言葉になる。

応募は減った。でも、辞めなくなった

冒頭の失敗のあと、僕は別の会社の採用ページで、この順番でやってみた。

社長と話して出てきたのは、「何でも自分でやります、が前提の会社です」という一行だった。分業を期待して入ると、たぶんつらい。そう書きましょう、と提案した。社長は少し渋った。応募が減るのが怖い、と。

書いた結果、応募数は前年より減った。

けれど、面接に来る人の質問が変わった。「どこまで自分で決めていいんですか」と最初に訊く人が来るようになった。そして採用した二人は、一年経っても辞めていない。

社長が後から言っていたのが、印象に残っている。「あの一行、社内でも効いてます」と。新しく入った人に何かを頼むとき、「うちはそういう会社だから」と言えるようになった、と。

採用の言葉は、外に向けて書いているようで、実は社内の基準になる。これは、僕が仕事でいつも言っている「ブランドをつくる=会社の判断基準をつくること」と、まったく同じ構造だ。誰を採るかは、その会社が何者であるかの宣言でもある。

誰でも歓迎、と書いた瞬間に輪郭は消える

人手が足りない会社ほど、間口を広げたくなる。気持ちはよく分かる。目の前の欠員は、今日の問題だからだ。

ただ、間口を広げるほど、見極めの仕事は入社後に先送りされる。そして入社後の見極めは、いちばんコストが高い。合わない人を先に言葉にしておくというのは、その見極めを入社前に済ませておく、という設計の話だ。

そしてこの作業は、実のところ採用のためだけのものではない。「うちでは活きない人」を言葉にすることは、「うちが何を大事にしているか」を裏側から定義することでもある。だから一度やっておくと、採用ページだけでなく、評価の場面でも、社員に仕事を任せる場面でも効いてくる。

僕がこれを「未来の経営資産」と呼んでいるのは、そういう理由だ。今年の採用のためだけじゃなく、これから入ってくる人と、すでにいる人の両方に、何年も効き続けるからだ。

自社の前提は、中にいる人ほど見えにくい。当たり前になっているものは、風景に溶けているからだ。外から事実だけを並べて訊く人がいると、驚くほどあっさり出てくることがある。

COLORSDRIP では、中小企業の思想・価値・目指す姿を言語化し、デザインによって“未来の経営資産”に変えるお手伝いをしています。「うちの場合はどうだろう?」と思った方は、まず気軽に話を聞かせてください。→ [HP相談フォーム / LINE]

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デジタル領域が得意なデザイナー。日頃から海外のトレンド情報や最新技術をインプットし、お客さまに価値を届けます。

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